だいたいは日々のなんでもないお話

日々の記録というか、忘備録。本が好きです。

山田健『水を守りに、森へ―地下水の持続可能性を求めて』筑摩書房、2012年1月

著者の山田健(たけし)さんは、サントリーの社員です。会社の仕事として、森作りを進めている方が、その経過を書いた本です。
 
カバー袖にはこう書かれています。
「日本は水の豊かな国だと思われているかもしれない。しかし、それは幻想にすぎない。その水資源を養うはずの森では、驚くほど深刻な事態が進行している。下草が一本もない森、ヒノキや杉が立ち枯れ、鹿が跋扈し、竹林が雑木を侵食し、松やナラが大量枯れ死する……いったいなぜこのようなことになったのか。はたして森林と地下水の再生は可能なのか。そのためには何が必要なのか――。さまざまな難関を越えて、50年100年先を見すえた森林再生プロジェクトに挑む!」
 
この「日本の森が荒れている」という問題は、なんとか解決しなくていいけない問題だと、かねて思っていたので、書店で見つけたとき、迷わず買いました。
林野庁が守れていない日本の森を、企業が、「自分たちの商品である水を守る」という目的があるとはいえ、守ろうと、こんなにちゃんと考えて実践しているんだということを知って、おどろくとともに、とても嬉しくなりました。やっぱりこういう人がいるんだ、よかったと思いました。
 
ところで、こんな本を書いている著者ですが、森林学の専門家でもなんでもなく、大学では文学部に所属していて、サントリーにはコピーライターとして入社したとのことです。著者の山田健さんが入社した頃は、サントリーといえばウイスキーやブランデーなどの洋酒が主商品だったが、最近ではそれ以外のお茶や水コーヒーのほうが主流になって来ています。その事に改めて気がついた山田さんは、そんなに水、とくにきれいな地下水に依存している会社が地下水にどう関わっているのかを調べたところ、取水している周辺の環境調査や地価推移の定期的な検査などは行っていることがわかった。しかし地下水というのはその周辺だけでなく、もっと川上で地下に入り、そこから流れてくるのであるから、取水している周辺だけを保全すればいいというわけにはいかないのではないか、と山田さんは考えたのです。
そこで、地下水保全のため、すべての工場の水源涵養(かんよう)エリアで工場で汲み上げている地下水以上の水を森で涵養しようという提案、「サントリー天然水の森」を企画して会社に提案してみたところ、社長の「おもしろいやないか。やってみなはれ」の一声で採用されたというのです。
サントリーってなかなか面白い会社ですね。
 
で、森のことを何も知らなかった山田さんが、それから森と山のことを勉強しつつ、いろんな分野の専門家に教えてもらいながら、水源の森をどんどん作っていくというお話です。
その過程で、今の日本の森がどうなっているのか、水源涵養のための森をどう作っていけばよいのかなどなど、とても興味深い実践が記されています。
いま、日本の森がどうなっているのか、そして、その荒廃を食い止めるためにはどうしなければいけないのか、そういう問題に興味のある方におすすめの本です。