だいたいは日々のなんでもないお話

日々の記録というか、忘備録。本が好きです。

高田宏臣『土中環境』

わたしが最近読んで、よかった本を紹介したい。

高田宏臣『土中環境』(建築資料研究社、2020年6月、税別2500円)である。

副題は「忘れられた共生のまなざし、蘇(よみがえ)る古(いにしえ)の技(わざ)」。

土中環境 忘れられた共生のまなざし、蘇る古の技

土中環境 忘れられた共生のまなざし、蘇る古の技

  • 作者:高田宏臣
  • 発売日: 2020/06/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 「土中環境」なんてことばは、わたしは初めてみるし、知っている人は殆どいないのではないかと思うので、どんな本なのかを説明する前に、まずは著者について書く。高田宏臣さんの肩書は「高田造園設計事務所代表、NPO法人地球守代表理事」ということだ。1969年、千葉生まれで、東京農工大学農学部林業科を卒業して造園家になった人である。

で、いまは、国内外で造園・土木設計施工、環境再生に従事。土中環境の健全化、水と空気の健全な循環の視点から、住宅地、里山、奥山、保安林等の環境改善と再生の手法を提案、指導。大地の通気浸透性に配慮した伝統的な暮らしの知恵や土木造作の意義を広めている。とのことである。

ここに、「大地の通気浸透性に配慮した伝統的な暮らしの知恵や土木造作の意義を広めている」とあるが、これがまさに本書『土中環境』にかかれていることである。本のタイトル「土中環境」とは、「土の中の環境」ということだが、これではなんのことやらピンとくる人は殆どいないよね。

わたしはこの本を買う前に、著者が代表理事を務めているという「地球守」のホームページなどを見て、著者についての知識を少し得ていて、だいたいどんな事が書かれているのか想像がついていたので、値段は少々高いと感じたが、迷うことなく買った。

chikyumori.org

結論から書くと、大変面白かった。

 

「山の木が枯れたりして、森が荒れるのはなぜか」という問題に対して、この土中環境が悪くなったからだという視点の指摘ははじめて知ったので、すごく興味深く読み進めた。そうだったのか〜とうなずくこと頻りであった。

今さかんに言われているのは、「木が枯れるのは、害虫、たとえば松枯れならば、マツノザイセンチュウなどのせいである。ナラ枯れならば、カシノナガキクイムシのせいである」ということで、原因とみなされた害虫を駆除するために農薬を撒いて解決しようとしている。しかしこの農薬散布方法では根本解決にはなっていないのである。松枯れやナラ枯れが、この農薬散布で収まったという話は聞いたことがない。

害虫にやられたことはもちろん間違いというわけではないのだが、害虫によって枯らされてしまう要因が他にあるということなのだ。だからその本当の要因を取り除かなければ、枯れるのを防ぐことはできないのだ。そして、著者の高田さんは、それは土中環境の悪化のせいであるというのである。

では、「土中環境」とはいったいなんだろう。ここは難しいというか、この本の要なので、気になる方はぜひとも本を読んでほしいのだが、わたしの読み取った範囲でいうとこういうことだと思う。

木の根っこは土の中にとっても長く伸びており、その土の中には土があるだけでは決してなく、様々な生きものが活動しているのである。目には見えない大きさの微生物や菌類である。そして木は、じつはそれらの菌類と共生しているのである。だからそういう菌類が元気でいられないような土壌には木も育たないのである。

菌類が生きていくために必要なものは他の生き物と同じで、まずは空気と水である。よい土壌には適度の空間が存在していて、その空間があれば、そこに水や空気が流れることができる。健全な土壌には、地上と同じく、滞ることなく流れる清冽な水と空気が必要なのである。

その流れをコンクリートアスファルトなどの人工物で遮ってしまうと、土の中では空気も水も流れる道を塞がれてしまうことになる。それが土の中の環境をだめにしてしまう。その結果、根っこから栄養を取れなくなって、木は元気を失い、そこにマツノザイセンチュウなどの害虫がくると、それを自分の力では防ぎきれなくなって、枯れてしまうのである。

だから、土の中の水の流れを阻害しないように、雨として降り注いだり川として流れている水が地中に染み込んだり、また地中から地上に湧き出てくる道を塞がないようにしなければならないのである。これこそが根本的解決となる、というのである。

 

この本を読んで、わたしが思い至ったことは、いま日本の山の中に、本当に「山のように」作られている砂防ダムや治山ダムのことである。わたしはそんなに山に登るわけではないのだが、たまに登るというか歩いていると、「こんなところに!」と思わず声が漏れてしまうような山奥にまで砂防ダムが作られていることに驚くことが多々ある。こんなところにこんなダムというか、コンクリートの堰がほんとに必要なのか? と不思議に思えるような山奥にまで作られている。

そんなダムが、本書には、「現在、全国で数十万基存在すると言われています」とあるが、一体本当はどこに何基あるのか、誰も把握していないのではないかと思われるのだ。これこそが、奥山の森を荒廃させている一大原因ではないのだろうか、ということである。

高田さんにはぜひとも日本の奥山の森を守るための力になってほしいと、この本を読んで強く思った。ぜひ、お願いしたい。

そして、環境問題に関心のある方にはぜひともこの本を読んでみていただきたい。

人間の目に見えないからと言って、そこには何も無くはないのだ。庭や植木鉢の土、道の土中にもっともっと思いを馳せてみようではないか。