だいたいは日々のなんでもないお話

日々の記録というか、忘備録。本が好きです。

八木啓代(やぎのぶよ)さんの『ラテンアメリカくいしんぼひとり旅ーーお手軽エスニック料理をあなたに』(光文社文庫、2000年1月2000年1月)を読みました。(2010年11月読了)

いやー、ラテンっていいですね。とっても楽しく読めました。
女ひとり旅の私的エッセイなはずなのに、秀逸なラテンアメリカ案内になっています。なんて言うとちょっと褒めすぎかもしれないが、ラテンアメリカ人気質とラテンアメリカの料理のことを知りたい方にはお薦めです。著者の体験が軽やかに(良い意味で)綴られていて、とても読みやすいです。

タイトルを読むと、ラテンアメリカ、つまり中南米の旅行記のようであり、また、中南米のエスニック料理のレシピも載っているのかな、という書名ですね。で、中身はどうかというと、まあその通りでした。
文庫本ではありますが、カラーの口絵が8ページも付いていて、メキシコの市場やカフェなどの写真が見られます。

さて、本書を手にして最初に感じたのは、紙が普通の文庫本とはちょっと違うなという手触りでした。本文の用紙が分厚くて固いのです、ページ数は176ページなのに、結構分厚い感じです。でも軽いです。でも軽いです。
ま、そんなことより、内容ですよね大事なのは。
さっそく目次を紹介しましょう。こんな感じです。
第1章 できるヒトにはわからない
第2章 女は褒(ほ)められて美しくなる
第3章 ご家庭で作れる爆発物
第4章 エスニック料理を作ってみよう
第5章 おそるべし中国三千年
第6章 口に入れるまではわからない
第7章 あなた、保険に入ってますか?
第8章 女王様と呼んでください
第9章 暑いときの熱い関係
第10章 市場で遊ぼう
あとがき

ほんとに、旅行記とレシピの本なの? と疑いたくなるような目次ですよね。
でも大丈夫、とても面白いです。
第1章は、まえがきのようなもので、なぜ八木さんが自分で料理をするようになったかということや、レシピを載せている料理の特徴、「ふつうのスーパーで手に入る材料を使う」「高度なテクニックを要しない」「それでいながら家族や友人に一目置かれるようになる」というようなことが書かれています。

で、第2章「女は褒められて美しくなる」です。
ラテン男の最大の特徴は「人をおだてるのがうまい」ことだそうです。まあおだてであってもやっぱり褒められると気持ちはいいもので、それは料理にも言えて、家族などに褒められるとついついどんどん料理を作るようになってしまう。で、褒められるにはやはり目新しい料理のほうが有利だということで、「ボロニア風ミートソース」「ミートソースオムレツ」「ミートソースグラタン」「ピカディージョ・ア・ラ・アバネラ」「エンパナーダ」など、日本の家庭では普通つくられないような料理と聞いたこともないような料理のレシピです。

第3章は「ご家庭で作れる爆発物」ですが、これではなんのことやらぜんぜんわかりませんよね。
この章は、メキシコのゲリラ蜂起の話やキューバの革命の話から始まります。で、この「ご家庭で作れる爆発物」というのは、1970年代の終りに中米のニカラグアで革命があったときに流行った歌のタイトルです。ほかにも「誰でも使える機関銃」なんて歌が流行ったそうです。ラテンですね……。
そこから、八木さんが電子レンジで卵を爆発させてしまった話に行って、レシピは電子レンジで作る料理の紹介です。あさりの酒蒸しに手抜きプリン、手抜き茶碗蒸し、鶏の酒蒸し梅肉風味。

第4章になってやっと料理本らしいタイトルが出てきましたね。「エスニック料理を作ってみよう」です。
本章ではお話も革命の話でなく、料理の話です。中南米で食べた日本料理や中華料理の話から、八木さんがメキシコに留学に来たころに、極辛唐辛子を挟んだサンドイッチを食べて唇がタラコのようになった体験からメキシコの唐辛子の話へと進みます。レシピは、「アドボ」「キューバ風チキン」「インド風チキンカリー」の3つです。

第5章は、中米のグアテマラで出会った台湾の人に中華料理を教わるお話。で、レシピは「中華風挽き肉炒め」「麻婆豆腐」「海老のチリソース中華風」「豚肉とパイナップルの炒め」など。

第6章は「口に入れるまではわからない」というわけで、メキシコのイグアナとかサボテンなど、日本人にとってはとても珍しい食べ物の話です。でもレシピはふつうで、「ロールビーフ」「ロールキャベツ」。

第7章はアルゼンチンの食べ物の話です。なんとアルゼンチンでは主食が肉なのだそうです。だから当然一日に一回はステーキを食べないと気がすまないというのが普通だそうです。その結果として、アルゼンチンにはリューマチ、糖尿病、老人ボケが多いらしい。
というわけで、レシピは、こってりした料理。「季節の野菜のポタージュスープ」「鶏のソテー、生クリームソース」「鶏のカツレツ、ナポリ風」「スペアリブのオレンジ煮」「パエジャ」など。

第8章は、パーティーの話。日本のご家庭に呼ばれてのパーティーでは結構気を使って疲れてしまうことが多いが、ラテンの国でのパーティーはなんの気も使わなくていいところがいいらしい。無断で友達を連れていっても構わないし、欠席しても構わないし、手ぶらでも構わないし、適当な時間に行って適当な時間に帰ってしまって構わないそうです。これはなかなかいいですねー。そんなパーティーならほんとに気軽に参加できますよね。では、そういうパーティーを催す側はどうしたらいいのかというお話。レシピもそういう時のための料理です。「レングア・ア・ラ・ビナグレッタ」「テールシチュー」。それに、カクテルの紹介も、「クーバリブレ」「カンペチャーナ」「モヒートス」。

第9章は、沖縄の話です。著者は熱いところがお好きなようですね。沖縄の民謡酒場での出会いや、沖縄の食べ物の話が楽しい。でレシピは当然沖縄料理です。「沖縄風豚の煮物(ラフテー)」「ソーメンチャンプルー」など。

最後は市場の話ですが、「市場に行こう」ではなく「市場で遊ぼう」です。函館や京都、大阪の市場から、チリ、メキシコ、香港などの市場の様子から、それぞれの国の食べ物の話がでてきます。
「外国に限らず、本当においしいものを食べられるようになるただひとつの方法は、〈自分が何を食べたいか〉とか〈ふだん自分が食べている◯◯と食べ比べてみたい〉ではなくて、その料理店の料理人がいちばん得意にしている料理、または、その店に出入りする地元の客が好んで注文して食べている料理を味わうことです」とあります。
レシピは、「揚げ茄子の海老風味煮」「豚の紅茶煮」「コンビーフ入りスペイン風オムレツ」など。

でも、八木啓代さんは、本書の後には料理の本は出していないようですね。仕事が忙しくて、あまり料理をしている時間が取れなくなったのでしょうか。