だいたいは日々のなんでもないお話

日々の記録というか、忘備録。本が好きです。

アマゾンの「キンドル」が日本でも買えるようになりました。そして,1か月ほど後には,アップルの「iPad」が発売になるというので,今年2010年は,電子書籍元年になるだろうと,出版業界では騒がれています。もちろん,わたしもその騒いでいる一員です。

そして渦中の一人として,今年,これからどうなるのか大変楽しみにしています。
ただ楽しみに待つだけでなく,いまの時点でのわたしの考えていることを,(自分用のメモとしてですが)書き留めておきたいと思い,書いてみました。

目次
電子本騒ぎ/電子本とは/わたしの経験/わたしの要望/これからの出版業界はどうなるのか/本とイーブック

●電子本騒ぎ
なぜ「歓迎」とか「侵略」でなく,「騒ぎ」なのかといえば,当の出版人たちがいったいこれが歓迎すべき者なのか,既存の出版社に対する侵略なのかが判断しかねるからだと思います。小出版社社員のわたしは,どちらかというと歓迎したいと思っています。しかしほんとうに歓迎すべきものなのかどうかの判定は,わたしにもわかりません。
まだまだ,これからどうなるかを息を潜めてそっとドアの隙間からのぞいているというのが,ほとんどの出版人の現在ではないのでしょうか。

●電子本とは
ところで,さっきから「電子本」とか「電子書籍」とか書いていますが,これを定義するとどういえばいいのでしょうか。

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』で検索してみました。こうありました。

「古くより存在する紙とインクを利用した印刷物ではなく、電子機器のディスプレイで読むことができる出版物である。電子書籍はソフトウェアであるコンテンツだけを指すが、ハードウェアである再生用の端末機器(リーダー)も重要な要素であり、本記事ではコンテンツと端末機器の両方について記述する。
呼称については電子書籍の他、電子ブック、デジタル書籍、デジタルブック、Eブックといった呼称が存在する」

ふむふむ,つまりは「電子機器のディスプレイで読むことができる出版物」ということですね。「電子機器のディスプレイ」というのは,パソコンやケータイ,ゲーム機,キンドルのようなイーブックリーダーのことだと思えばいいのでしょう,現在は。

では,「出版物」ってなんなんでしょうか。
また「ウィキペディア」を検索してみましたが,「出版物」という項目はありませんでした。そのかわり出てきたのは「出版」という項目です。そこにはこうありました。

「出版(しゅっぱん)とは、販売・頒布する目的で文書や図画を複製し、これを書籍や雑誌の形態で発行することで、上梓(じょうし)、板行(はんこう)とも呼ばれる。上梓の「梓(し)」とは、カバノキ科のアズサのことではなくノウゼンカズラ科のキササゲのことで、古く中国で木版印刷の版材にキササゲが用いられたことに基づく。書籍や雑誌など出版されたものを出版物と呼び」

つまり,出版物とは「書籍や雑誌など,販売・頒布する目的で文書や図画を複製し発行された物」ということなので,つまるところ「書籍や雑誌」ということになるのでしょう。なんか堂々巡りをしているような気がしないでもありませんが。

で,この2つをまとめてみると,電子書籍とは「電子機器のディスプレイで読むことができる書籍や雑誌」ということになります。うーむ,「電子機器で読む書籍」って,そのままですね。

じゃあ,「書籍」というか「本」って何なんだろうと,またウィキペデアをしらべてみると,

「本(ほん)は、書物の一種で、書籍・雑誌などの印刷・製本された出版物である。狭義では、複数枚の紙が一方の端を綴じられた状態になっているもの」

ということは,電子本は「本」ではないですね,ぜんぜん。

かなり混乱してきましたが,わたしとしては,この「電子本」「電子書籍」という呼称をまずは変えた方がよいのではないだろうかと考えます。
そのもう一つの理由は,いま言われている「電子書籍」のなかには,書籍だけでなく雑誌や新聞も含まれているということがあります。それならますます「書籍」じゃないでしょ,といえるのではないでしょうか。
「イーブック」とか? でも「ブック」って「本」のことですね。
電子本に共通する物といえば,モニターで文字や絵,写真,それに動画を読む・見ることですから,もう思い切って「ディスプレイパブリッシュ」とか「映像読物」「イーリーディング」「イーリード」「電子文書」などいかがでしょうか。

しかしまあ,以降はとりあえずの呼称として「イーブック」(EBook)をつかいます。

●わたしの経験
さて,このイーブックは最近になって騒がれてはいますが,もっと前にも一度大変話題になったことがあります。

松下電器が2003年7月に発表した電子書籍専用端末「シグマブック」。それにソニーが出した「リブリエ」です。
わたしも,出版社向けの説明会に出席した記憶があるのですが,この2つは今はもう消えてしまったと思います。

そのほかにも,今も続いているものとしては,パソコンやケータイで読むイーブックがあります。結構な市場を形成しているといわれていますが,その主たる商品は漫画のようです。

わたしは,シグマブックやリブリエは使ったことはありませんでしたが,パソコンやケータイ読書は今もやっています。イーブックジャパンや理想書店でイーブックを買って読んでいます。
が,パソコンでの読書(?)はやはりだめです。イスにしっかり座ってじーっとモニターを見続けるというのは苦行です。だめでした。続きません。

もうひとつのケータイについては,ケータイ読書がやりたいがために,数年前にわたしは,はじめてケータイを買いました。シャープのケータイでした。これは,最初のうちは珍しさも手伝ってなかなか快適でした。満員電車の中での読書とか,出張のときに持って行く本が少なくてすむというのはよかったです。
しかし何冊か読んでいくと,つぎに読みたい本が売っていないことが大変苦痛になってきました。新刊もほとんどイーブックでは入手できませんでした。
で,いまでは,外出に本を持って出るのを忘れたときの保険としての本を少し買っているだけで,ほとんど日常では読まないという結果になっています。
現在売られているイーブックの少なさはどうにもがまんできるものではありません。

ケータイの画面で読むことがどうのこうのいう以前に,提供されているイーブックがあまりにも少なすぎます。

以上がわたしのイーブック経験です。
現在はiPhoneを愛用していますが,通勤電車や旅行の新幹線のなかではもっぱらiPhoneとにらめっこで,産経新聞を読んだり,メールチェックをしたり,メールマガジンを読んだり,ごく最近ではツイッターを読んだり書き込んだりばかりしています。ですから,iPhoneで読めるイーブックがいっぱい出てきたら,もうまちがいなくどんどん買うでしょう。

●わたしの要望
というわけで,わたしの,イーブックへの要望は,とにかく今ある本とこれから出る本(新刊)のすべてをイーブックで出してほしいということです。
とはいっても,過去に出した本を,確実に売れるという保障がないのにすべてイーブックにするというのは実際問題としては不可能だと思いますので,既刊本のイーブック化は徐々にしか進まないだろうなあと思いますし,それは仕方がないと思っています。

一方の新刊本については,ぜひとも同時に本とイーブックを発行していただきたいと思っています。もちろんわたしの会社も含めてですが,ぜひお願いしたいです。

●これからの出版業界はどうなるのか
さて,要望は要望として置いておいて,では今後出版はどうなるのでしょう。わたしが望むように,どんどんイーブックが発行されるでしょうか。

わたしはそうすぐにはならないだろうと思っています。残念なのですが。
本の世界に関わっている人たちとして,出版社以外に,著者や書店や印刷製本用紙会社,それに取次といった人びとがいます。イーブックというのは,パソコンなどの電子機器に文字データを送信してモニターに映し出して,それを読者が読む仕組みですから,極端な話し,文章を書く人(著者)が販売も兼ねて行えば,あとは読者がいれば成り立ってしまいます。
そうなると,出版社も書店も印刷製本用紙会社も取次もいらないということになります。

しかし,これまで築いてきた出版社と著者とのつながりというものもありますし,自分で自分の書いたものを売るということができる著者は,現時点ではほとんどいないのではないかと推測されますので,出版社や書店などがいらなくなる日がそうすぐに来るとはとうてい思えません。

イーブックがどんどん出てどんどん売れるようになってくると,その先がどうなるかはわたしにはまったく予測できません。新しい技術もつぎつぎとできてくるでしょうし。
いまの時点でわたしが言えることは,ずっと先のことはわからないけど,いますぐに現在の出版業界のかたちががらがらとかわることはないのではないかとうことだけです。イーブックへの対応の仕方によっては,出版社や書店の入れ替わりは十分にあり得ると思いますが。

●本とイーブック
さて,最初に「電子書籍」「電子本」というように,「書籍」や「本」という言葉をつけると,そもそも「本」というのは,その「紙に文字が印刷されていて,その紙の一方を綴じている」という形をその特徴としているのだから,どうしても現在の「本」の形にひっぱられるのを避けられないと思うのです。で,たとえば「イーブック」というふうにでも呼称を変えた方がいいということを言いました。

では,この従来の「本」と「イーブック」はどのように棲み分けるのでしょうか。それともどちらかがどちらかを駆逐してしまうのでしょうか。

この問題については,先行している音楽業界のことが参考になるのではないかと思います。
レコードがCDに駆逐され,そのCDもデータ配信によって徐々に少なくなってきているのが,いまの音楽業界の動向だと思います。

出版業界でいえば,ハードカバー本が並製本に押され,いまは単行本が新書と文庫に押されています。イーブックによるデータ配信が盛んになれば,音楽と同じく,単行本も新書も文庫も徐々に売れる数が減っていくのではないかと,わたしは予想します。

しかし,レコードと本はやはりちがいます。レコードはそれだけでは機能しませんし中が見えません(音ですから当然ですが)。しかし本はそれだけでちゃんと機能しますし,中身が見えます。それに,線を引いたり付箋を貼ったり書き込んだりできます。(考えてみると,音楽に似ているのは,イーブックなんですね。リーダーがないと読めないしデータだけでは中身が見えないし)

だから,本とイーブックは両立するのではないか,というのがわたしの考えです。
ただもうパラパラと目を通すだけでかまわないというものはイーブックで読まれるだろうし,しっかり線を引きながら読みたいものは本で読まれるというように。
あるいは,装丁家菊地信義さんの言うように,「物としての価値がない本は早晩,完全に電子書籍にとってかわられる」のかもしれません。
わたしは,「物としての価値を必要としない本がイーブックとして発行されるだろう」と思います。