だいたいは日々のなんでもないお話

日々の記録というか、忘備録。本が好きです。

青山潤『アフリカにょろり旅』(講談社、2007年2月10日、1680円)を読みました。

うなぎが日本の川から海へ還って太平洋の真ん中あたりで産卵しているらしいが、その産卵の場所を日本の研究者がつきとめた、というニュースを、何年か前に新聞か何かで読んだ記憶がありました。この本が出たのを知ったときに、すぐにそのことを思い出しました。

奥付の著者紹介を読んでみたら、やはりそうでした。そこにはこうありました。

「青山潤=1967年、横浜市生まれ。東京大学農学部生命科学研究科、博士課程修了。その後、東京大学海洋研究所行動生態研究室に所属し、塚本勝巳教授の下で、助手としてウナギの研究に携わる。2006年には同研究室の手によって、日本のウナギの産卵場所がほぼ特定され、世界的な注目を集めた。現在も、研究の傍らエッセイなどの執筆活動中」

ウナギの産卵場所をほぼ特定したのは昨年のことだったのですね。

さて、それでこの本はというと、このウナギの研究家である著者(40才)と、研究室の教授、塚本勝巳さんと、同僚の渡邊俊さんの3人によるウナギを求めての旅の話です(教授は途中で先に帰国する)
ウナギを求めてと言っても、ウナギなら何でもいいというわけではないのです。研究のためのウナギです。この場合は、世界中のウナギのすべての種類を集めるための旅です。

ある日、塚本教授は青山さんにこう言います。
「僕はね、ウナギ全18種類を机の上に並べてみたいんだよ。18種類全部持っている機関は、世界のどこにもないんだよ」
これは、教授ならずとも、だれだってウナギの研究者ならそうしてみたいでしょうね。というわけで、青山さんと渡邊さんは世界各地を飛び回って集めました。全18種類のうち、17種類を集め、残るはあと1種類だけというところまできたのです。しかしまあなんでも大体そうですが、この最後の、100%にするところというのが大変なんですよね。100%を求めてしまうと格段に苦しくなります。でもやはり、「全部ある」のと「ほとんどある」との間には深い溝があります。

というわけで、3人で、その最後の1種類、アフリカに生息するという「ラビアータ」という種類のウナギを採取するために、帰国日未定のオープンチケットを手に(採取するまでは帰らない、という決意なわけですね)、アフリカのマラウイ共和国へ出発するのです。

この本は、そのラビアータを求めてのアフリカの旅の記録です。
アフリカのマラウイ共和国といわれても、わたしはどのへんにある国なのかどんな国なのか、まったく知りませんでした。でも、本の中にちゃんと地図が載っていますので大丈夫です。その地図によると、マラウイという国は、アフリカの東南部、マダガスカル島のあるあたりです。真ん中に大きな湖、マラウイ湖があって、タンザニアモザンビークザンビアなどに囲まれた国です。

旅とは言っても、もちろん観光ではないし、とくに今回のかれらの旅は、とにかく目的のウナギ「ラビアータ」を手に入れるまでは帰れない旅なので滞在日数不明ということで、経費は削れるだけ削らなければいけません。なので、宿はできるだけ安いところへ泊まり、移動もタクシーではなくバスを使います。
そんな旅なので、肝心のウナギを探す前に、まずは安い宿の確保と、食事と水も確保しなければなりません。
要するに、まずはマラリアなどの病気にかからないできちんと元気に生きるための手段を確保するためにエネルギーの大半を費やすのです。それらをちゃんと確保できてはじめて、ウナギ探しに力を注ぐことが可能になるのです。

さて、このウナギ「ラビアータ」を探すといっても、日本にいるときに現地の誰かに連絡をしてウナギを確保しておいてもらって、それを手に帰国、というわけではもちろんありません。アフリカでは、ウナギといっても、日本のようにだれでもが知っている魚というわけではないので、まずは現地の人々の中でも漁師だったり漁師を知っていると思われる人々を集めて、「ウナギという魚は、ヘビのように細長くてにょろにょろしている魚です。ただしそのウナギの中でも我々が欲しいのは、色がこれこれこういう色をしていてひれがどうのこうの……」と絵をまじえながら説明して、それをしっかりと理解してもらわなければなりません。その後、「で、その魚を持ってきてくれたならば○○円で買い取ります」と集まった人々に伝えます。そこまでやったら、後はひたすらラビアータをだれかが持ってきてくれるのを待つだけです。
しかし、現地の人々が持ってきてくれるのは、だいたいウナギのように細長いけれどウナギではない魚だったり、たまにウナギがきてもラビアータではない種類のウナギだったりするわけです。
読んでいて、「そんなんなら現地の人にいちいち説明するのなんかやめて、自分たちで川や湖に取りに行けばいいではないか」と思ったのですが、それは大変危険なことのようです。アフリカの水の中には、目には見えない「住血吸虫」という、毛穴から侵入して肝臓や脳を冒すものが潜んでいるということです。そういうことなら、川や湖にはいるなんてとんでもないことですね。

まあそういうわけなので、この本、ウナギの貴重種を求めての学術研究紀行というよりは、「アフリカ危険地帯安宿めぐり冒険旅」といった方がぴったりくる感じです。
超満員ぎゅうぎゅうバスの旅などはまだましな方で、トラック荷台ジャガイモの上乗りガタガタ道旅でひたすら振り落とされないようにしがみついていなければいけないとか、気温40度以上のカンカン照りの道を水なしで延々と歩いたりとか、安宿のトイレやシャワーの話など、じつに悲惨な話の連続です。
悲惨というだけではなく、なかなか見つからないウナギ「ラビアータ」を求めてとうとうマラウイを出て、隣の国モザンビークやそのまた隣のジンバブエにまで行っているのです。モザンビークは、少し前まで内戦状態だった国なので、未だにそこいら中に地雷が埋められているという国です。もちろん最初からそんな国に行く予定などなかったのですが、なんとしてもラビアータを確保したくて行っているのです。

ホントに、これが、ウナギの研究において世界的に有名な大学の研究室の研究者の研究のために旅なの、とほとんど信じられないような内容の旅の記録です。
自分で実際に体験は決してしたいとは思わないけれど、こうした他人のすごい体験を本で読むのはとってもおもしろいです。

さて、それで結局のところ幻の「ラビアータ」は手に入ったのでしょうか? それは、読んでみてのお楽しみということで、ここでばらすのはやめておきます。ぜひ本を読んでみてください。とにかくめったに体験できないであろうことの話の連続で、息つく暇なく読めること間違いなしのおもしろい本です。

最後に、目次を紹介しておきます。
1.命がけの挑戦
2.モンキーベイ
3.水! 汝、尊きものよ
4.シレ川のンコンガ
5.ムリバンジ! 野良象
6.テテ回廊に地獄を見た
7.カボラバサの嘘つき日本人
8.地獄からの生還
9.ロワーシレの消耗戦
10.懲りない男たちに女神は微笑む
11.待ちぼうけ地獄
12.旅はまだ続く!

アフリカにょろり旅

アフリカにょろり旅


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