だいたいは日々のなんでもないお話

日々の記録というか、忘備録。本が好きです。

西成活裕『渋滞学』(新潮選書、2006年9月20日、1260円)を読みました。

「渋滞学」って何だろう、「渋滞」をどう研究するというのだろうか、というのが、この書名を見てまず思ったことです。
この本の裏表紙の文章によると、

「人混み、車、アリ、インターネット、……、世の中、渋滞だらけである。生まれたばかりの研究〈渋滞学〉による分野横断的な発想から、その原因と問題解決の糸口が見えてきた。高速道路の設計のコツから混雑した場所での道路の作り方、動く歩道の新利用法まで。一方で、駅張り広告やお金、森林火災など、渋滞が望ましいケースでのヒントにも論及。渋滞は、面白い!」

とのこと。
「渋滞」と言えばすぐに思い浮かぶのは高速道路をはじめとする車の渋滞だと思いますが、この著者によれば、それだけではなく、人混みや、アリの行列、そしてインターネットのデータから火災の時の火の進行、はてはお金の流れまでも研究対象らしいです。

著者によれば、「渋滞学」というのは生まれたばかりの研究と言うことですが、じゃあ今まで「渋滞」については研究されていなかったのかというと、もちろんそんなことはなくて、車の渋滞については交通工学の分野ではずっと昔から研究されてきていますし、人の渋滞については建築工学の分野で古くから研究されてきているそうです。
また、インターネットの渋滞についても、もちろん最近の大きな問題ですので、盛んに研究されているとのことです。アリの集団運動についての観察や実験も同じく古くから研究されているそうです。

つまり、今までは、各分野でそれぞれ別個に研究されてきたものを、その共通項である「渋滞」という現象にしぼって研究するのが「渋滞学」ということになるようです。
まだ始まったばかりの研究で、日本での紹介はこの『渋滞学』が最初の本らしいです。だからか、この本では、とにかく、車、人、アリ、インターネット、電車、エレベータ、飛行機、森林火災、体内のタンパク質、お金など、いろいろな分野での渋滞現象の紹介と、その研究内容を解説してくれているところで、紙幅がつきたという感じです。

それにしても、「渋滞」というのは車だけではないのですね。よく見てみると、ほんとにいろいろなところで起こっていることなのですね。高速道路の造りにはこのような研究が役立てられているのでしょうね、きっと。それに「渋滞」って、悪いイメージしかなかったけれど、そうか、お金の流れや火災の火の進行など、渋滞してくれた方がいいものもあるんですね。人間の寿命だって渋滞してくれた方がいいといえるのかな、といろいろと考えさせてくれた本です。
しかし、「いい渋滞」といっても、火災がまわりに広がらないで留まっているのって、渋滞というのでしょうか。なんとなく「渋滞」っていうと「たまる」というイメージがあるので、「火災の渋滞」といわれてもすぐにはピンと来ませんでした。それと、「お金の渋滞」というのも、お金が自分のところで止まるのはいいのですが、渋滞と言うことは「そこで止まったまま使えない」というイメージがわいてしまいます。使ってしまったらそれはもう渋滞していないわけですから。なにか、お金が貯まるというのが「渋滞」のイメージにはしっくりこない気がしてしまいます。お金の場合の理想は、使っても使ってもどんどん貯まっていく、というイメージであって、使わないから(前に進めないから)貯まっていくというのは、ちょっと違う気がします。

でもまあ、「渋滞」っていう切り口で世の中のいろいろな現象を読み解いてみようという試みはたいへん面白いかも知れないと思います。

ところで、じゃあ、著者はいったいどうしてこんな研究に世界で(?)初めて着目したのでしょうか。「あとがき」にはこう書いてあります。

「……渋滞に関する研究を開始したのは1996年頃であるため、今年で10年になる。実は当時は数学に興味があって、渋滞を研究するなどとは夢にも思っていなかった。しかし、たまたま自分が研究していた非線形数学という分野で、セルオートマトン法についての大きな進展があった。この研究成果に心奪われてセルオートマトンの研究をしているうちに、いろいろこれは応用できることに気がついた。特に本文でも述べた、0と1の動きを見ていると、私の嫌いな〈渋滞〉が生まれる様子に極めて似ていることがわかってきた。それならば、渋滞解消を目指して、数学の最新の研究成果を一気に社会問題へ応用してゆくのも痛快なのではないかと考えるようになった。……」

とのことです。
非線形数学と言われても、わたしには何のことだかさっぱりわかりませんが、とにかく著者は数学者なのですね。しかしそう言われてみると、「渋滞」って、一本の線の上をそこからはずれることなく動くものの動きだから、数学的なのでしょうか、何となくそう言う気がしてきました。

最後に、この本は、「東京大学工学部広報室 特任教員・内田麻理香のブログ」(9月7日)によると、第23回講談社科学出版賞を受賞したとのことです。
http://d.hatena.ne.jp/ut-tlounge/?of=10

渋滞学 (新潮選書)

渋滞学 (新潮選書)