だいたいは日々のなんでもないお話

日々の記録というか、忘備録。本が好きです。

平本紀久雄『イワシの自然誌ー「海の米」の生存戦略』(中公新書、1996年7月)

平本紀久雄『イワシの自然誌ー「海の米」の生存戦略』(中公新書、1996年7月)

 煮干しの原料となるカタクチイワシのことを調べたくて買い求めて読んだ。話のメインはマイワシであったが、求めていた片口イワシのこともちゃんと出ていたのでよかった。
 実は、著者の平本さんには一度お合いしてお話を伺ったことがあるのです。もちろんカタクチイワシのお話を伺ったのです。
 平本さんは、1940年生まれということだから、現在はちょうど70歳ですね。北海道大学水産学部を卒業された後、ずっと千葉県水産試験場に勤務され、イワシの漁況予報を仕事とされてきたという方です。
 カタクチイワシのことを調べようとしなければ,イワシに関心を持つこともなかったでしょうが,本書を読んで,イワシのことがよく分かってよかったです。イワシって,そんなに食べられてはいないと思いますが,江戸時代などは肥料としてとても大事なものだったようです。いまでも日本の漁業にとって主要な生産物であるとのことです。

 で,私が知りたかったカタクチイワシについては,このようなことが分かりました。「カタクチイワシ(カタクチイワシ科)は,上顎が下顎よりも前方に出ていることからその名つけられたのであろう。東京ではシコイワシと呼んでいるが,常磐,房総では,もっぱらセグロイワシといったほうがとおりがいい。……寿命は三年で,体長は最大一六センチである」
「一般に温帯の海に棲む魚は春から夏にかけて成長し,冬にはほとんど成長が止まってしまう。マイワシのばあい,冬には未成魚は越冬し,成魚は産卵に加わり,いずれも成長が止まってしまうが,晩春から夏にかけて,未成魚も成魚もともに成長期に入る。このような成長の季節変化を反映して,鱗〔ウロコ〕・耳石〔ジセキ〕・脊椎骨などの硬組織に年に一回の成長休止帯(年輪)が刻まれるので,これを手がかりに年齢が推定できる」

 これらのこと以外にも,下記にある目次を見ていただければ分かるように,イワシの生態についての詳しい話がいっぱい書かれています。
 イワシのことが知りたいという方にはもちろんですが,日本の漁業のことを知りたい方にもおすすめです。

■目次
第1章 イワシは海の米
イワシは海の米/銚子,九十九里浜に見るイワシの豊凶の歴史/漁況予報三十年/初仕事がイワシ調査/漁労長はみな予報官

第2章 イワシとはどんな魚か
イワシの仲間/イワシの先祖/姿かたちや大きさがちがえば機能も異なる/イワシの代表選手たちのプロフィル/江戸時代の書物に見るイワシの分類/ところ変わればサイズも異なる/世界に分布するマイワシの仲間/世界のカタクチイワシ,ウルメイワシ,サッパの仲間/器用なイワシ,不器用なイワシ

第3章 マイワシの生き残り戦略
成熟と産卵/産卵場の移り変わり/発育にともなう形態の変化/一年にどれくらい成長するか/肥満度で栄養状態がわかる/栄養と成熟のからくり/なにを食べて成長するか/漁師に学んだイワシの習性/マイワシの「種社会」はどういう構造から成り立っているか/豊漁期にどこまで分布を広げたか/三陸沖の漁場へ来遊するしくみ/「大回遊型」と「小回遊型」

第4章 マイワシの資源量を推定する
産卵量で資源量を求める/シラスや未成魚の漁況で資源量を推定する/クジラがマイワシの資源量を教えてくれた/突如あらわれた一九九二年級群の資源量を推定する/システム工学モデルを使ってマイワシ漁況を予測する/マイワシの資源管理は可能か?

第5章 マイワシはなぜ増えたり減ったりするのか
マイワシが消えた/昔からイワシは豊凶を繰り返してきた/豊凶に関するいろいろな説/魚種交替のドラマを推理する

あとがき