だいたいは日々のなんでもないお話

日々の記録というか、忘備録。本が好きです。

「蟻食べてツキノワグマは命あり」『人はクマと友だちになれるか?』の紹介

わたしは、きょうは、最近読んだ本の紹介をしようと思う。その本とは、これである。「イワサキ・ライブラリー」という子ども向けのシリーズの1冊である。漢字にはルビが付いている。

 

『人はクマと友だちになれるか?』

太田京子、岩崎書店、2004年7月。
 
「人はクマと友だちになれるか?」と問いかけられたらいったいどう答えたらいいのだろうか? クマは、犬や猫と違って、ペットではないのだから、それは無理だろうと、わたしは思うのだが、友だちとまでは行かなくとも、共存はしたいと思う。
地球に生きるもの、いや、あるものと言ってもいいかも知れないが、できることならばすべてのものが共存し続けられるといいなあと思っている。
 
子どものときからなぜかクマのことが気になってし方がない著者は、大人になってからもその気持ちが消えず、とうとう東北や山陰まで出かけていって、クマについての話を聞いてきたそうである。
 
「研究者たちは、〈クマをつかまえて、このままどんどん殺していたら、クマは近い将来いなくなってしまうだろう〉といい、クマの被害を受けた地元に人たちからは、〈クマを殺さないで、どうつきあえばいいのかわからない〉というような意見がたくさん出されました。
 人間とクマは、おたがいに傷つけないで、暮らせないものなのでしょうか? 人間はクマと友だちにはなれないのでしょうか?」
 
そして、2001年のこと、著者は、長野県でツキノワグマの調査や保護管理をおこなっている「ピッキオ」という団体があることを知り、取材を始めたのだそうだ。
本書はその取材の話が中心になっている。
 
軽井沢では、1996年ころから、野生のツキノワグマが夜間にたびたびあらわれて、ゴミ集積所や家のそばに置かれたコンポストで、ゴミをあさるようになったということである。人間にとってはゴミである生ゴミは、野生のクマにとっては簡単に手に入るおいしい食べ物だったというわけである。一度その味を覚えてしまったクマは、ごみがある限り何度もやってくるようになったということだ。そしてその「あそこにおいしい食べ物がある」という情報は親から子へと伝わる。
そこで、ピッキオは、ゴミ箱を、クマに開けられないような頑丈なものにすることや、ゴミの集積所を見回ったりするということわ始めている。クマが集積所に来てもゴミが食べられなければ、もうそこには来なくなるというのだ。
ゴミ問題だけでなく、なぜかはわからなくとも人家の近くに出てきてしまったクマは、近所の人が怖がるので、捕獲して、熊撃退スプレーや空砲などを使って怖がらせてから山に放つという、学習放獣というものをしているのだ。
 
もちろん長野のピッキオの試みだけでなく、他のところでもおなじように、クマが奥山から出てきて人家の近くに来ることがないようにしようという試みをしている人がいる。
たとえば、北海道の知床にはヒグマがいるのだが、そこでは観光客向けに、「鈴などの音で、クマに自分の居場所を知らせる。クマへ食べものを与えない。クマがいても近寄らない。ゴミは捨てないで持ちかえる」ということを呼びかけて、ヒグマとの共存を目指している。
また、宮城県には、「ツキノワグマと棲処の森を守る会」という活動をしている人がいるとのことである。「クマの畑」を作っているというのだ。山の実りが少ない夏にクマが食べてもいいようにデントコーンの畑を作ったそうだ。
また、東京の奥多摩でもこんな活動がされていた。クマをひきつける柿の実を都会の人にもいでもらって、ついでにクマのことも考えてもらおうと、「こまっています。もいでください!」のフレーズで、柿の実をもいで干し柿を作るイベントを計画し、大反響があったとのことである。2002年とその翌年も実施したようである。

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こんなふうに、人里に出てくるクマを、ただ危ないからと言って捕まえて殺すだけでなく、なんとか、人里に出てこないようにして、人とクマが共存できる社会を作ろうとしている人達がいるということが、本書を読むとよく分かる。本書が書かれたのは、いまから20年前ではあるが、長野のピッキオのように、いまもなお続いている活動なのである。著者と同じ願いを持つ人にはぜひとも読んでいただきたい本である。
そして、わたしたちの住む日本の森の中にひっそりと生きているクマなどの動物のことを、ときに思い出して、その瞬間にも同じ空の下に確かに生きているクマたちのことを想像できる人間でいたいと、わたしは思う。そして、そういう人がわたしのまわりに一人でもふえてほしいと願っているのである
 
 
「蟻食べてツキノワグマは命あり」
「木の実たちツキノワグマの好きなもの」
「夏の山クマの気配や徐々に」
「クマの手が岩突いて蟻大量に」
「夏山に餌少なくてクマ惑う」
「夏山や食べもの枯れてクマ歩く」
「クマ歩く夏山に食べものありや」
「木に実なく夏の山クマ生き辛き」
 
 

今週のお題「575」