だいたいは日々のなんでもないお話

日々の記録というか、忘備録。本が好きです。

アルコールが消えた

わたしが、お昼を食べるのにいつも利用している食堂に、ちょっと久しぶりに行ったところ、なんと、こんな張り紙があった。

ノンアルコールビール各種あります。◯◯ビール、◯◯ビール、……」

と、ノンアルコールビールの名前が5種類くらい書かれてあった。そして、同時にメニューから、本当のお酒というか、本物のビールや酎ハイなどのアルコール飲料の名前が、消されていたのであった。

このお店は居酒屋ではなく、れっきとした食堂なのだけれど、ふだん、なぜか昼間からビールなどを飲むお客さんが、けっこういらっしゃるのである。それで、わたしなどはそんな人々を「いいなあ……」と横目で見つつ、見ていないふりをしてひたすらご飯と味噌汁を食べている、というお店なのである。

そしてこの日、わたしの席の近くで、わたしと同じくその張り紙を目にした、ひとりのお年寄りの男のお客さんが店員さんに食べ物の注文をしていたのだけれど、そのお客さんは、「お酒はだめなの?…………5月11日が過ぎたら、お酒は飲めるようになるの?」と店員さんに尋ねていた。店員さんは申し訳なさげな様子で、「そうですねえ、緊急事態宣言が出てますからねえ。延長されなければですけどね」というように答えているのが聞こえてきた。

わたしは、そんな受け答えを聞きながら、黙々と昼食を食べていたのだが、心のなかでは、ああ、かわいそうだなあ、この食堂で美味しいおかずを食べながらちびりちびりとお酒を飲むのが、一日の楽しみなんだろうなあ、あのひとは。うーむ、さびしいだろうなあ、残念だろうなあ、なんだかよくわかる気がするなあ、他人事とは思えないなあ。などとしんみりとしていたのである。ひとり静かに飲むくらいいいじゃないか……、とおもうんだけど、そんなことまでやっちゃだめなんてなあ。

このおじいさんは、きっと、自宅でひとりじゃなくて、スーパーで買ってきた惣菜じゃなくて、まわりに人が居て、美味しい刺身かなんかが食べられるこの食堂で、ひとりではあるが、誰ともしゃべらないのではあるが、みんながいる中でお酒を飲みたかったんじゃないだろうか。それが3日に一度の楽しみだったんじゃないのか。それなのに、少なくともあと10日ほどは、そんなささやかな願いも叶えられないなんて。

 

 

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 はやく、こんなふうに、人と人との間に透明な板を挟んであったとしても、一緒に飲める日が戻ってきてほしいなあ。