だいたいは日々のなんでもないお話

日々の記録というか、忘備録。本が好きです。

中沢新一・波多野一郎『イカの哲学』(集英社新書,2008年2月20日,本体680円)を読みました。

 書名の「イカの哲学」ってなんだろう? と思って手にとってみたのですが,この書名からは中身を想像できず,読むべきかどうか一瞬悩みました。
が,そういえば最近『プルーストとイカ』という本も出ていたよな,と思い,「イカ」にひかれて買ってみました。で,読みました。

 「イカの哲学」というのは,1922年に京都で生まれ,第2次世界大戦の特攻隊の生き残りで,戦後アメリカのスタンフォード大学に留学した在野の哲学者である波多野一郎さんが,1965年に少部数出版した書です。

 学生時代にその「イカの哲学」を下記のように紹介する文章に出会ったとのことです。
「このような存在論的世界は,はたして,わたしたちにとって無縁なものであろうか。それを,概念的な哲学的論述よりも,むしろ,生命的な共感の体験について,とうてみたい気がする。
わたしは,身ぢかに,亡友波多野一郎の遺著[イカの哲学のこと]をおもいうかべる。特攻隊の生きのこりで,戦後,アメリカにわたってパースの哲学をまなんだ著者は,この小著のなかで,太平洋海岸でのイカ漁のアルバイト中に,特攻隊として出撃する直前の限界状況を回想しているうちに,目前にある個々の「イカの実在」を共感し,人間主義的なヒューマニズムの存在論的根拠を否定するにいたる体験を記述している」
という,文化人類学者・富川盛道氏の文です。

 中沢さんは本書の長い「はじめに」で,この「イカの哲学」の著者である波多野一郎さんの紹介をしています。
 その次に,この「イカの哲学」が載っています。その中には主人公の大助君の次のような叫び声があります。

「そうだよ!! 大切なことは実存を知り,且つ,感じるということだ。たとえ,それが一疋のイカの如くつまらぬ存在であろうとも,その小さな生あるものの実存を感知するということが大事なことなのだ。
この事を発展させると,遠い距離にある異国に住む人の実存を知覚するという道に達するに相違ないのだ」

 そのあとは,この波多野氏の文章に触発されて考えぬかれた中沢氏の平和論,戦争論が展開されます。そして,この実在の思考は,日本の憲法9条や,エコロジー思想へと発展していくのです。

 いや,ほんとにこのイカの実存を感知する思想が世界中に広まると素晴らしいなあ,と思わずにはいられない。が,同時に,ほんとうに広まるだろうか? とも思った。